大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 昭和27年(ワ)178号 判決

原告 河野利明

被告 鳥海福松

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は被告は原告に対し金三十万円及び之れに対する昭和二十七年六月十九日より支払済に至るまで年六分の割合による金員を附加して支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、本訴の請求原因として、

原告は被告が訴外森実商事株式会社に宛て (一) 昭和二十七年五月二日額面金二十万円、支払期日昭和二十七年五月十五日、支払地徳島市、支払場所株式会社四国銀行徳島支店、振出地徳島市、の約束手形一通を振出し、(二) 更に同日額面金十万円支払期日、支払地、支払場所、振出地前同一の約束手形一通を振出し右二通の手形の受取人においては右手形につき昭和二十七年五月十五日之を原告に各裏書譲渡し、原告は右各手形の所持人となつたところ満期日、支払場所に各手形を呈示し支払を求めたが、各支払を拒絶せられたので元金並に之れに対し昭和二十七年六月十九日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を附加して支払を求める為め本訴に及ぶと述べ、

被告の抗弁に対し本件手形は家屋建築の請負代金の支払の為め受領したものであつてその家屋の建築場所は徳島市において訴外細田文明に一任し土地を選択するも、若し適当なる場所なきときは右細田においては自己所有地を提供し、家屋を建築する約束であるが未だ建築場所は特定せず、原告は司法書士兼建築士であつて建築設計施行を業とし、家屋建築を請負ひ、その代金として本件手形を受領したものであつて、単に取立を目的とする譲渡でないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その答弁として、被告は原告主張の約束手形二通に署名捺印したことは之を認めるけれども、被告は手形債務負担の意思をもつて手形を振出したるものでなく、手形行為そのものを否認する。仮りに手形行為があつたとしても夫れは訴外森実商事株式会社の使用人福田某が右会社に対し唯単に一時之れを見せるだけで取立等一切せぬと言う言葉を信じ、署名捺印したものであつて詐欺による手形行為であるから、本訴において取消の意思表示をする。又原告は詐欺の事実を知り仮装の裏書譲渡を受けたものである。又原告は司法書士を専業とし建築請負業者の登録なく訴訟行為を為すことを主たる目的として信託譲渡を受けたものであるから該裏書は信託法第十一条及び法律事務取扱の取締に関する法律に違反する無効のものである。即ち原告は昭和二十七年五月十九日当庁昭和二十七年(ヨ)第八一号有体動産仮差押決定を受け同年五月二十一日被告の有体動産に対し仮差押執行を為し延て本訴に及んだものであつて訴訟を主たる目的とするものであると述べ、又仮りに被告において手形金支払の義務ありとするも、訴外森実商事株式会社に対する債務は金二十六万千四百八十五円二十銭であつて反面被告は右訴外会社に対し反対債権金十三万九千三百円の請求権を有するから本訴においてその対当額において相殺の抗弁を提出する。よつて債務は残金十二万二千百八十九円二十銭である。更に又原告に対する本件手形裏書譲渡はその裏書の連続を欠くから原告は適法なる手形所持人でない。即ち森実商事株式会社は、株式会社四国銀行徳島支店に裏書し更にそのまま二重に原告に裏書したのであるから裏書の連続を欠いておると述べた。<立証省略>

三、理  由

成立に争のない甲第一、第二号証によれば被告が手形に署名捺印し之を訴外森実商事株式会社に交付したることを認められるところ、手形に署名する意思をもつて之れに署名し他人に之を交付したるときは手形の振出行為は完成するものであつて、被告は振出当時の文言により手形債務関係を生ずるものであるから手形行為無効の抗弁は採用出来ぬ。而して被告は詐欺による手形振出行為であるから之を取消すと言うのであるが、法律行為の取消はその行為の相手方に対し為すべきであつて、手形授受の直接の当事者でない原告に対し取消しを為し、手形行為の効力を否認することは出来ぬから此の点に関する被告の抗弁は採用せぬ。又被告は裏書の連続を欠く原告の手形所持人の権利を争うと言うけれども前掲甲第一、第二号証によれば株式会社四国銀行徳島支店に対する裏書は取立委任裏書であるから之を抹消せず更に裏書譲渡するも手形の裏書の連続を欠くとは言えないし、又原告は悪意をもつて被告を害することを知り裏書を受けたる手形取得者であるから之を争うと言うけれども、証人三崎正市、福田和雄、元山恵幸、鳥海マサヱの各証言及び被告本人の供述によるも之を認めることは出来ぬ、又被告は訴外森実商事株式会社に対し債権があるから原告の請求に対し、その対当額につき相殺すると抗弁するけれども訴外森実商事株式会社に対する債権をもつて手形上の請求を為す原告に対抗することが出来ぬから被告の相殺抗弁は採用せぬ。次に原告は弁護士でないのに報酬を得る目的で訴訟事件を取扱うことを業とする者であつて弁護士法第七十二条、信託法第十一条の規定に反するから譲渡は無効であると抗弁するにつき按ずるに前掲甲第一、第二号証及び証人鳥海マサヱの証言並に被告本人の尋問の結果によれば原告は本件手形につき昭和二十七年五月十五日裏書譲渡を受け、昭和二十七年六月十三日支払命令を申請し、昭和二十七年五月十九日当庁昭和二十七年(ヨ)第八一号有体動産仮差押決定を受け、同月二十一日被告に対し有体動産仮差押執行をしておる事実を認めることが出来るし、原告は建築を請負うたというけれども、未だ建築する場所たる宅地も特定しておらず、又証人三崎正市の証言によれば同証人は訴外森実商事株式会社の代理人として訴外細田文明より原告が建築請負師であることを聞き名目上甲第三号証を作成契約して建築を請負わした、と言う叙上各個の事情を、彼れ是れ参酌考量し訴訟費用は訴外人森実商事株式会社が負担することなど考え合わすときは原告は訴訟を為すことを主たる目的として本件手形の裏書譲渡を受け、是れを業とするものと認定することが出来るから、原告の斯る行為は禁止されておるものと言えるので、原告の本訴請求は失当である。よつて本訴請求は不当として排斥し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 武市忠治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!